「・・・・・・祐一さん・・・・・・僕は・・・・・」
「戦うのは、怖いか?」
いきなり、真意を言い当てられた。
とっさに祐一の顔を見上げ、すぐに目を伏せて、唇をかむ。
と。
祐一は床に膝をつき、ディーの目をまっすぐに覗き込んだ。
「その気持ちを、忘れないことだ」
「え・・・・・・・・」
思いがけない言葉に、ディーはもう一度、顔を上げた。
祐一は小さく息を吐き、言葉を続けた。
「・・・・・・どんな理想を掲げても、どれほど純粋な心を持っていても、剣を振るえば血が流れ、人が死ぬ。戦いとは、そういうものだ」
言葉を切り、なにかを考えるように目を閉じて、
「・・・・・・強くなれば誰かを幸せに出来るなんて考えは、ただの思い上がりだ。剣を振るって敵を倒しても、生まれる物は何もない。強さとは所詮、奪った命の数でしか測れないもの。戦いとは結局、相手を力で切り捨てること。・・・・・・それが怖いのなら、剣を捨てるしか道はない」
目を開け、ディーを見据え、
「だが、それでも・・・・・・たとえすべてをなげうっても守りたいものが、君にはあるだろう」
とくん、と心臓が音を立てた。
すべてをなげうっても、守りたいもの。
僕は、あの日、あの子を守るために戦うと、確かに誓った。
だけど。
「・・・・・・でも・・・・・・僕は、マリアさんを・・・・・・」
「確かに、君がいなければ、マリアはもう少し長く生きられたかもしれない」
ディーの言葉を遮り。祐一は続ける。
「彼女に残された最後の時間を、君は奪った――そのことは、もうどうやっても変えられない。泣いても叫んでも死者は生き返りはしない。・・・・・・だが、君がしたことは、それだけではないだろう」
二本の騎士剣を拾い上げ、
「君はこの剣で、確かにあの子を守ったはずだ」
「それは・・・・・・」そうかもしれない。
でも。
「・・・・・・それで、僕のやったことが帳消しになるって言うんですか・・・・・・?」
「違う」祐一は首を振った。「人の死とは、どんなことをしても取り返しがつかないものだ。君がすべてを捨てて守ろうとしたあの子は、君を人殺しと罵るかもしれない。・・・・・・だが、それでも、君が剣を振るうことでしか為し得ない事が、この世界には確かにある」
「あ・・・・・・」
戦慄に似た何かが、ディーの体を走り抜けた。
祐一の言葉が、少しずつ胸に染み渡っていく。
「・・・・・・君がこの剣でどれだけのことを為したとしても、君の罪は決して消えない。君の剣は、これから先も数え切れないほどの命を奪い、悲しみを生むだろう。人は君を兵器と呼び、恐れるだろう」
祐一は、剣の柄をディーの手に握らせ、
「それでも戦え。罪も痛みも、すべて背負って生きろ。強さとは・・・・・・たぶんそういうことだ」
「・・・・・・僕は・・・・・・」
押し付けられた二本の騎士剣を、ディーはじっと見つめた。











ウィザーズ・ブレインⅢ〜光使いの詩〜より、ディーと祐一兄貴の会話。
直接的にではないにせよ、ディーのせいで、セラの母親が軍に殺され、ディーもセラも捕まり、そのディーを助けた祐一がディーに「戦うことの意味」を教えるシーン。
罪も痛みも、全て背負って生きてきた祐一兄貴だからこその台詞。あなたにベスト・オブ・アニキ賞を贈りたい。
そしてディーは決意する。
セラを助けること。セラのために生き、セラのために戦い、セラを守り抜くことを。
決意したディー。セラを救うために。
迷いを捨て去って、自らの意思で。
そして、決意を形とすべく、能力を発動した
――(『身体能力制御』起動)
駆け出す彼の目の奥に、迷いは押し込められていた。それは、少年が得た、今出し得る最高の解。その結果。